カーサ・ストーリー

かつて異国の地を渡り歩いた伝説の特派員が
いま、静かに家と庭を慈しむ。ここは、二人が帰るべき家・・・。

岡山市 H邸 Casa 066

「主人はね、家とか庭にはまったく興味がないタイプで、それこそ仕事一辺倒。 毎晩、午前さま…(笑)。それがこの家を建ててからは、ひまを見つけては庭い じりにペンキ塗り、私が一番びっくりしています」と奥さま。その話を聞いて、当のご主人のHさんはといえば…「バー ベキューをしたり、のんびりビールを飲んだり…。庭にいる時間が自然に増えたんですよ。そうしたらもっと綺麗にしようかなと思い始めて。ゴルフ場に行ってもプレーよりも、敷石に使える石はないかなぁ、なんて感じで自分でも驚いています」。

津島の街並みを見下ろす小高い丘にあるH邸。青く抜ける空に映えるスペイン瓦、今では貴重な木製サッシにウッドデッキ、各所に配されたトップライト、そして薪ストーブ。よく手入れされた庭の木々と穏やかな家屋のシルエットが、津島の丘にしっとりと溶け込んでいる。「10年20年かけて、ゆっくりと熟成 する家にしたかったんです。10年経っての感想ですか?そうですね、お二人のお人柄でしょうか、月日が育て上げた落ち着きと風合いがありますね。年を重ねるごとにますます素敵になっています」と目を細めるカーサ・カレラの木口オーナー。

最後に。テレビ局に勤務するHさんは、あの湾岸戦争当時、特派員として中東の地に三年、東京に二年滞在した経歴を持つ。当時は四〇代、気力も体力も充実したまさに男として脂の乗りきった頃の話だ。それから二〇年近く経った今、Hさんは忙しい合間を縫っては黙々と汗を流し、庭いじりに精を出す。かつて生と死が瞬時に交錯する 戦いの最前線を、日々駆け回ったHさんが、緑燃ゆるデッキで自ら育てたブドウのひと粒を愛しそうにつまむ姿を見た時、人には帰るべき家が必要なんだなとつくづく思った。そう、カーサ・カレラが手がけたこの家は帰るべき家。無垢なる時間が流れる家。中東、東京、そして岡山へ…。Hさんご夫妻がたどり着 いた、心の安息地なのかもしれない。

このインタビューは『オセラ No.41 爽秋号』に掲載されたものです。

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